奈良県宇陀市の室生の山里にひっそりと佇む室生寺は、古くから女性たちの信仰を集めた「女人高野」として親しまれてきました。石楠花(しゃくなげ)の名所としても知られ、毎年5月の連休頃に満開を迎える境内約3000株の花々は、秋の紅葉とともに多くの参拝者を魅了しています。

石楠花に彩られ、今もなお女性からの人気が高い室生寺。その魅力を奥の院までたっぷりとご紹介します。
太鼓橋から仁王門へ
室生寺は奈良県北東部宇陀市の自然あふれる山里、室生エリアにあります。奈良市街地から車で1時間ほどです。

茶店やお土産物店が並ぶ門前通りを抜けて、室生川にかかる太鼓橋を渡り室生寺境内へと向かいます。

室生寺は奈良時代に天武天皇の勅命により、修験道の祖・役小角(えんのおづぬ)が建てたと言われ、その後、空海が真言宗の道場の一つとして再興したと伝えられています。
役小角(えんのおづぬ)と言えば、吉野の金峯山寺の開祖として有名です。鬼神をも使役したと言われる日本最古の呪術者で、奈良のあちこちに神秘的な伝説が残されています。
室生寺は、かつて女人禁制だった高野山と同じ真言宗に属していますが、古来から女性も参詣できたことから「女人高野」として親しまれてきました。

仁王門をくぐり、石段を上がりながら順にお堂を巡り奥之院へと進みます。ここから奥之院まで700段ほどの長い石段に挑みます!

仁王門では、赤色と青色の立派な金剛力士像がお出迎えです。
鎧坂から弥勒堂と金堂へ
仁王門をくぐり鎧坂を見上げると、石段沿いが石楠花の花々で華やいでいました。鎧坂の名は、石詰みが草摺(くさずり)(鎧の下に垂らす腿の保護)に似ていることからきているそうです。


鎧坂の東側一帯にも石楠花が咲き広がり、辺りは可憐で優しい色合いに包まれていました。もうすぐ咲きそうな石楠花のつぼみも美しいです。

鎧坂を上りきると、左手に弥勒堂があります。鎌倉時代に建てられた三間四方の杮葺きのお堂です。

弥勒堂の向かい側には、密教の明王である軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)の石仏があります。様々な災いを取り除いてくださるそうです。聖なる室生の山で大切にされてきた密教と仏教、修験道の融合を感じます。

鎧坂から正面に見えたのがこの金堂です。平安時代初期の建築で国宝に指定されています。懸造り(かけづくり)の高床正面一間通りは礼堂(らいどう)で、江戸時代に増築されています。
懸造りとは、斜面の上に長い柱や貫を渡し、その上に建物を建てる建築様式です。

金堂では国宝・釈迦如来立像などの美しい仏さまに心癒されました。
本堂と五重塔
金堂からさらに石段を上がっていくと本堂(潅頂堂(かんじょうどう))があります。鎌倉時代に建立されたお堂で国宝に指定されています。
ご本尊の如意輪観音菩薩像は日本三大如意輪と称されています。


五間四方の入母屋造りで、和様と大仏様の折衷建築様式になっています。

本堂からさらに石段を上がっていくと、五重塔の美しい姿が現れます。室生寺の五重塔は高さ16.1mで、屋外に建つ五重塔では日本で最も小さいです。
平安時代初期の建立で、塔頂上の相輪が他の五重塔では見られない珍しい形式となっています。九輪の上には普通見られる水煙の代わりに、受花つきの宝瓶(ほうびょう)、その上に八角形の傘状の宝蓋(ほうがい)が据えられています。宝瓶の中には龍神がいて、塔を守っていると言われています。相輪もすべてが可憐で美しいです。
こちらの石楠花も五重塔を彩るかのように咲き誇っていました。

五重塔は樹齢およそ600年の杉の大木に囲まれています。美しいフォルムの小さな塔は、周りの自然と調和していて、しっくりくる心地よい空間でした。
奥の院へ
五重塔からさらに奥の山上へと続く参道があります。気持ちいい新緑の空気を味わいながら、杉木立の間を進みます。

この辺りは、暖地性シダ植物が自生する最北端の地として天然記念物指定がされています。

途中、岩を抱きかかえるような大樹の根を発見。自然の力強さ、すさまじい生命力を感じます。

ひたすら続く石段は運動不足解消に持ってこいです。汗を拭きながら必死で上ります!

山の斜面に奥之院常燈堂(位牌堂)が見えてきました。大きくて迫力のある懸造りがそびえ立っています。

奥之院にある鎌倉時代創建の御影堂(みえどう)は大師堂とも言い、弘法大師空海像をお祀りしています。御影堂のそばには諸仏出現岩があり、その頂上には七重石塔が建っています。

回廊からの眺めに、達成感を味わいながら深呼吸。奥之院の空気は清々しく、心身ともにリフレッシュできました。
室生寺公式サイト:http://www.murouji.or.jp/
室生寺へのアクセス
・近鉄室生口大野駅から室生寺前行きバス終点下車徒歩5分
・周辺に大型有料駐車場あり
まとめ
いにしえから女性を受け入れ、気持ちを和ませてくれた室生寺。山の中にひっそりと佇む五重塔は、いつでもそっと迎え入れてくれる優しい観音さまのように思えました。

奥之院からの帰路にもう一度、五重塔を眺めながらその美しさに心癒されました。ぜひもう一度訪れたいと思う場所です。