うららかな秋の陽気に誘われて、風情ある奈良が味わえる場所へ。今回は、二月堂裏参道を通る気ままなおさんぽコースをご紹介します。

二月堂裏参道は、東大寺大仏殿の裏手から東にまっすぐ進んだところから、二月堂へと続く道です。石畳と築地塀(土塀)が続く裏参道はとても趣があり、古都奈良が味わえるおすすめのコースです。
大仏池の紅葉から出発
大仏池の紅葉をチェックしながら、おさんぽに出発します。毎年秋になると大仏池の紅葉が楽しみで、色づき始めからほぼ毎日眺めています。

赤や黄、緑の色合いがとても美しく、池の周りには絵を描く人、写真を撮る人、のんびり過ごす家族連れやカップルの姿がありました。

大仏池の大イチョウは人気で、鮮やかな黄色が見られる頃から、落ち葉が黄色の絨毯のように広がる時期は多くの写真撮影の方々で賑わいます。
大仏池についてはこちら → 世界遺産・東大寺境内をゆるり散歩【奈良・東大寺】
東大寺大仏殿裏手から二月堂裏参道へ

大仏池と大イチョウを通り過ぎ、大仏殿の裏側を見ながら東へと進みます。大仏殿の大屋根は日々の生活の中で、いろんな場所で目に入ってきます。どこから眺めても屋根のゆるやかなカーブやバランスは美しく、どっしりとした安定感はどこかほっとする柔らかい印象も受けます。この辺りは、東大寺講堂跡地で礎石のみが残っています。

大仏殿の裏側を流れる小川沿いでは、「大仏蛍」と言われる天然のゲンジボタルが見られます。例年6月初旬から中旬が見頃で、木々の間をほわっ、ほわっとほのかに優しく光る蛍に心癒されます。一時は絶滅の危機にありましたが、保護活動により復活した蛍たちです。大切に見守っていきたいと思います。

大仏蛍の鑑賞スポットのすぐ近くに東大寺大湯屋があります。大湯屋は奈良時代の創建で、1180年の平家による南都焼き討ちで焼失しましたが、鎌倉時代に再建されています。内部に鉄湯船と呼ばれる鉄製の湯船が現存し、当初は僧侶たちが身を洗い清める場所でしたが、鎌倉時代には入湯料を取って庶民にも開放されていたそうです。
大湯屋の建物は、屋根の上に「腰屋根」という屋根が載っているのが特徴です。中の湯気を外に逃がす役割があります。屋根が正面は入母屋になっていて、反対側が切妻屋根という非対称な屋根も特徴的です。

お地蔵さんにご挨拶をして、先に進みます。

二月堂裏参道沿いには小さな田んぼがあります。ここは「二月堂供田(くでん)」と言われており、東大寺で使うお供えや神事用に使われるもち米が毎年栽培されています。

分かれ道を右へ進みます。左の謎の道はあとからのお楽しみに!

二月堂がはっきりと見えてきました。石畳と石段のゆるやかな坂道が二月堂へ向かって伸び、瓦が埋め込まれた築地塀(土塀)と白い漆喰の塀が向かい合って続いています。先に二月堂を見据え、なだらかに続く景色はとても風情があり、落ち着いた奈良らしさを感じさせます。
東大寺二月堂

二月堂に到着です。下から見るとよくわかりますが、山裾に建てられた「懸造(かけづくり)」のお堂です。斜面に長さを調整した束柱を建て、それらに貫(ぬき)を通して、床の高さを水平にした舞台を構成しており「舞台造」とも言われます。京都の清水寺も懸造建築として有名です。
「お水取り」「お松明(たいまつ)」で知られる修二会(しゅにえ)が有名な東大寺二月堂。旧暦の2月に行われたことから「二月堂」と言われています。江戸時代の1667年、お水取りの最中の火災により焼失しましたが、1669年に再建され現在に至ります。
修二会は練行衆(れんぎょうしゅう)と呼ばれる11人の僧がおよそ1ヶ月間にわたり厳しい行を行い、国の安泰を願う法要です。毎年3月1日~14日に行われる「お水取り」は修二会行事の1つで、燃え盛るたいまつが舞台を巡り火の粉を散らす光景は間近に見ると、とても迫力があります。
天平勝宝4年(752)以来、一度も途絶えることなくずっと続いています。来年の修二会のお松明拝観は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、一部制限が設けられるそうです。この先も修二会を続けることができますようにと願うばかりです。
令和3年修二会 新型コロナウイルス感染症下におけるお松明等の拝観方法変更について
東大寺公式サイト:http://www.todaiji.or.jp/

二月堂の本堂手前には「閼伽井(あかい)」と呼ばれる井戸を守るための建物「閼伽井屋(あかいや)」があります。「お水取り」の名は、この内部にある井戸「閼伽井」(別名「若狭井」)からお香水を汲み上げて本尊にお供えする儀式が由来となっています。この井戸は若狭国(福井県小浜)の神宮寺にある「若狭井」と地下水脈でつながっているという云われがあり、驚きです。

石段を上がり回廊(舞台)へ。お参りをして回廊からの眺望をしばし堪能しました。

二月堂の回廊からは、大仏殿の屋根越しに奈良の街や生駒山方面が一望できます。ここから眺める夕景も格別で、とても美しいのでおすすめです。
二月堂の裏山さんぽ
二月堂の裏手、本堂の北東側に気になる階段があります。裏山に続く階段を上がっていくと、神社や多くの石仏、お地蔵さんに出会えます。


ほとんど訪れる人もおらず、ちょっとした隠れスポットになっています。さらに先へ進みます。

さらに進んで下って行くと、まんなおし地蔵尊に出会えます。

まんなおし地蔵尊は、まん(間)が悪いのをなおし、運気を上げてくださるお地蔵さまです。




ここから坂道をさらに下って進んで行くと、一体どこにたどり着くのか? — 実は、先に紹介した二月堂裏参道の分かれ道の左側に出てきます!あぁ、すっきりした。謎の道も解決です。
ということで、また二月堂へ戻ります。

二月堂の本堂下には手水舎(ちょうずや)があり、そこにはありがたいお言葉がありました。
「笑」 そういえば、今日出会ったお地蔵さんたちも笑みを浮かべていたっけ。心が安らぐ気がしたとしみじみ思い返しました。閉塞感があるこんなご時世にこそ微笑みを忘れたくないです。
東大寺二月堂へのアクセス
近鉄奈良駅から徒歩約25分、JR・近鉄奈良駅から市内循環バスで「東大寺大仏殿・春日大社前」下車徒歩約13分、大仏池からぶらぶら散策で徒歩約10分程度となっています。
東大寺二月堂は拝観無料。入堂は不可ですが回廊周囲は自由で、24時間参拝可能となっています。
まとめ
大仏殿裏手を通り、二月堂裏参道へ、二月堂から裏山へ。気付けば、気ままな裏づくしのおさんぽコースになってしまいましたが…。紅葉を眺めながら気の向くままに進むうちに、心も体も解きほぐれていました。
二月堂裏参道界隈は四季折々だけでなく、朝、昼、夕景、夜景と一日の時間の経過の中でも様々な情景を味わうことができます。また、その時の心の持ちようでも見え方が変化する気がします。

のんびりとした時の流れの中で、ゆったりと奈良の景色を眺めてみませんか。奈良の懐の深さに触れながら、なんだかふっと心も足取りも軽くなる帰り道でした。